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静かな山のキャンプ場で始まったソロキャンプ
今回紹介するのは、私が山のキャンプ場で体験した忘れられないソロキャンプの出来事です。現在では笑い話として語れるようになりましたが、その時は本気で怖くなり、予定していた宿泊を諦めて帰宅することになりました。
当時は今ほど熊の出没情報が話題になる時代ではありませんでした。もちろん山には野生動物がいることは知っていましたが、現在ほど危険を意識してキャンプをする雰囲気ではなかったように思います。
その日訪れたのは山の中腹にある小規模なキャンプ場でした。利用者も少なく、自然を満喫できる場所として以前から気になっていた場所です。受付を済ませてサイトへ向かうと、すでに2人の利用者がいました。
ただし知り合いではありません。それぞれが別々にキャンプを楽しんでいる様子で、お互いに干渉することもなく、静かに過ごしていました。
私も自分のテントを設営し、昼食を作りながらのんびりとした時間を過ごしました。周囲では鳥の鳴き声が聞こえ、木々の間を吹き抜ける風も心地よく感じられます。
ふと周囲を見ると、他の2人もそれぞれの時間を楽しんでいました。一人は読書をしており、もう一人はチェアに座って景色を眺めています。会話をすることはありませんでしたが、人の存在があるというだけで不思議な安心感がありました。
昼過ぎから周辺を散策すると、地面にはシカやイノシシと思われる糞が点在していました。山のキャンプ場ではよくある光景です。

その時は「自然豊かな証拠だな」程度にしか考えていませんでした。むしろ野生動物が生活している環境に来ていることを実感し、少し嬉しく感じていたくらいです。
しかし日が傾き始めた頃から状況が変わります。最初に一人のキャンパーが撤収を始めました。そしてしばらくするともう一人も荷物を片付け始めたのです。
どうやら2人ともデイキャンプだったようでした。私は当然宿泊するつもりだったため特に気にしていませんでしたが、車が一台、また一台とキャンプ場を後にする姿を見送るうちに妙な感覚が生まれてきました。
気付けば広いキャンプ場には私一人だけが残されていました。先ほどまで感じていた安心感は消え、急に周囲の静けさが際立つようになったのです。
一人きりになった山の夜と不安を大きくした野生動物の痕跡
夕方から夜へ変わる時間帯になると、キャンプ場の雰囲気は大きく変化しました。昼間は開放感があった景色も、暗くなるにつれて不気味な印象へ変わっていきます。
山に囲まれたキャンプ場だったため、日が沈むと一気に暗くなりました。街灯も少なく、周囲には人工的な明かりがほとんどありません。
焚き火を始めると目の前は明るくなります。しかし焚き火の光が届く範囲は限られています。その先は真っ暗です。
昼間に見かけたシカやイノシシの糞が頭に浮かびました。野生動物が近くで生活しているのは当然なのですが、一人になると考え方が変わります。

「夜になったら近くまで来るのではないか」「食べ物の匂いにつられて現れたらどうしよう」など、様々な想像をしてしまうようになりました。
もちろん実際に動物を見たわけではありません。しかし人は暗闇の中にいると想像力が働きます。枝が折れる音や葉が揺れる音ですら気になってしまうのです。
風が吹くたびに木々が揺れます。遠くで何かが動くような音も聞こえます。普段なら自然の音として受け流せるものが、その日は妙に気になりました。
ソロキャンプは好きでしたが、その時は完全に孤独な状況でした。近くに利用者もいません。誰かがいるというだけで得られる安心感は思った以上に大きかったのだと気付かされました。
トイレで起きた不気味な出来事
そんな中で決定的だったのがトイレでの出来事でした。
そのキャンプ場のトイレには人感センサー式の照明が設置されていました。近付くと点灯し、しばらくすると消灯する仕組みです。
夜になりトイレへ向かった時、私はその照明が誰もいないのに反応していることに気付きました。

突然明かりが点灯し、しばらくすると消える。そしてまた点灯する。その繰り返しです。
最初は虫か風の影響だろうと思いました。しかし何度も続くと不気味さが増していきます。
辺りを見回しても誰もいません。キャンプ場にいるのは私だけです。風の音しか聞こえない静かな山の中で、トイレの明かりだけが突然ついたり消えたりしていました。
今考えれば機械の誤作動だった可能性が高いでしょう。しかしその場では冷静に考えることができませんでした。
山の夜特有の静寂も相まって、私は次第に落ち着かなくなっていきました。
恐怖に耐えられず撤収を決断した夜
トイレから戻った後も気持ちは落ち着きませんでした。テントの中へ入っても外の音が気になります。
風で木が揺れる音、どこかで枝が折れる音、遠くから聞こえる正体不明の物音。そのたびに耳を澄ませてしまいました。
焚き火の炎を眺めていても楽しむ余裕はありませんでした。本来ならゆっくり過ごすはずの時間が、不安と緊張の時間へ変わっていたのです。
しばらく考えた結果、私は撤収を決断しました。
せっかく来たのだから宿泊したい気持ちはありました。しかしその時の私はキャンプを楽しめる精神状態ではありませんでした。
ヘッドライトを装着し、急いで片付けを始めます。テントを畳み、寝袋を収納し、焚き火台を片付けていきました。

作業中も何度も周囲を見回していました。誰もいないはずなのに気配を感じるような気がしてしまいます。
荷物を車へ運び込むたびに安心感が増していきました。車は私にとって避難場所のような存在になっていました。
全ての荷物を積み込み、車のドアを閉めた瞬間の安心感は今でも覚えています。
エンジンを始動し、キャンプ場を出発した時には肩の力が抜けました。山道を下り、街灯が見え始めた頃にはようやく普段の気持ちを取り戻していました。

今だから思うソロキャンプの難しさ
帰宅して冷静になると、トイレのセンサーは虫や風の影響だったのかもしれないと思いました。シカやイノシシの糞も山では珍しいものではありません。
しかしその時に感じた恐怖は本物でした。人は孤独と暗闇が重なると、想像以上に不安を感じるものです。
今回の経験で学んだのは、無理をしないことの大切さでした。キャンプは楽しむための趣味です。我慢して続ける必要はありません。
もし不安が大きくなったなら撤収するのも正しい判断です。安全に帰宅することが何より重要です。
あの夜のキャンプ場で感じた静けさ、野生動物の痕跡、不気味に点灯を繰り返すトイレの照明は今でも鮮明に記憶に残っています。
結果として宿泊はできませんでしたが、自然の怖さとソロキャンプの奥深さを学ぶ貴重な経験になりました。
これからソロキャンプに挑戦する方は、装備だけでなく自分自身の気持ちにも目を向けてください。無理をせず、自分が安心して楽しめる環境を選ぶことが、長くキャンプを楽しむ秘訣だと思います。
